然し彼女の成熟した女性は愛を欲し、大きな情熱によってその婚約した青年とは永劫に別れつつ、彼の児の母となった。社会の常識と闘い、アンネットはそれを機会に新たな生涯に入った。彼女は、彼女の父親の代から属していた有産階級と絶縁し、家庭教師その他知的職業によって生活する一人の無産者となった。
アンネットは美しい。若い。然し恋愛を或る点恐怖している。アンネットは一旦自分を譲ったら徹底的に譲歩する自分の性質、並に必ず反抗するに違いない自分の自由を欲する魂をよく知っている。
中年に成って、アンネットはその恋愛に征服された。彼女は精力的な、社会の下層から身をのし上げた、有名な、派手な、素晴らしく天才的な外科医を愛するようになった。アンネットは、その男が征服的な、革命的な、精力に満ちた社会的闘士でなかったら愛するようにはならなかったろう。その男も、アンネットがアンネットでなかったら愛しはしなかったであろう。彼は自分の美しい若い妻を、女に知識は必要ないという主義で馴らしていたから、
ニューバランス ランニングシューズアンネットの裡に全然別種な、自分と共鳴することによって異常な興味を呼び醒された一箇の女性を発見したのであった。
この恋愛も破滅した。原因は、男の強大な主我主義と肉情によって、アンネットは自分が彼の愛人として人格的に陥りかかっている屈辱の深淵を見透し、自分の健康な自尊心をとりかえさずにいられなくなったのであった。――アンネットが確実に彼のものとなった後、彼は、アンネットの誠実な、熱烈な純一を愛する心を無視した一つずつの肉的な抱擁が、どんなにアンネットの霊魂を傷つけるかまるで考え得なかったのであった。アンネットは、大きな、死ぬばかりの苦痛を味った。
彼女の傍で、息子は次第に大きくなって来た。彼の青年期が始りかけている。――ここで第二巻は終っている。欧州戦争が始る。アンネットは母とし、一箇の自由主義者、理想主義者としてどう行動するであろうか。
私が感興を感じるのはアンネットが今日の進歩せる知識階級の女性の来ているところまで来ている点です。彼女は先天的な精神力によって階級のコムベンションを打破し、家族制度や過去の道徳に反抗している。彼女は自分一人の自由は或る程度まで完うし得た。
ニューバランス 574然し、彼女はこれからどのように発展し、明日の女性に向ってどんな予言を与えるか? 次の時代に役立つどんな生活の新しき拠りどころを見出すであろうか?
有産階級から出たアンネットは、その思想の母体がブルジョアであるアナーキスティックな思想に止るであろうか――これは、作家がそこに止ることを同時に意味するが――更にどの方向に進展するであろうか。私はそこを見ものと思い楽しんでいる訳です。
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