おそらく、十代二十代の人には一笑にも値しまい。けれど私たちの年齢の者は、平凡なはなしだが、「ああ、元日か」の感慨を年々またあらたにする。昨日の歴史、あの戦中戦後を通って来て、生ける身を、ふしぎに思うからである。そこで去年(昭和三十二年)の正月の試筆には、戯れ半分に「元日や今年もどうぞ女房どの」などという句を色紙にかけて拝むことにしておいた。すると升田幸三氏やら誰やら、つね日ごろ女房泣かせの輩が来ては「おれにも書いてくれ」と請われるまま、ついトソ気分で、おなじ句を何枚も人に書いてやった。ところが中にはそんな甘い文句の家庭円満剤では何の効き目もないらしい呑ンべな亭主どのもあったので、そんな人へは特に「これは細君に上げ給え」といってはべつな句をこう書いてあげた。
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