そこの海岸のホテルでの話です。彼女は女優でした。少しばかり年齢をとりすぎてしまいましたが、それでもいろいろな意味で最も評判のよい女優でした。劇場が夏休みなので、泳ぎにたった一人で海岸へ来ていたのです。ところが、ホテルのヴェランダで、ゆくりなくも誰とも知らない一人の青年を見初めてしまいました。――これは日頃の彼女にしてみれば非常に珍しいことで、しかもその青年はちっとも美青年でもなんでもなくて、むしろうち見たところひどく不器用な感じしかない男なのですが、そんな点がいっそ却って彼女の心をひいたのかも知れません。
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