大正三年の春南海よりの歸へるさに支那内地を一瞥せばやと思ひ立ち、上海の淹留中には一夜泊りにて、杭州に遊び、噂にのみは年久しく耳馴れし西湖の風光をまのあたり眺め、更に上海よりして陸路金陵に赴き、長江を遡り、漢口を經て北京に入りたりしが、車上に將た船中に、日々眼に遮るもの一として驚神の因たらざるはなく、外國旅行には多少の經驗ある己にも、支那は再遊したき國なりとの感を禁ずること能はざりき。つね/\は支那の文學こそ誇張のみを事とするものと信じ居たりしに、現地に臨みては、其評判程ならぬを覺り、其誇張の適例とも見做すべき詩文の中にも、忠實なる寫生を企てたるものゝ少からぬことを始めて知りぬ。
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