僕の愛用のパイプといつたつて、普通のブライヤアのやつで、ちつとも自慢するほどのものぢやない。何しろ、これを買つたのは、まだ僕が一高の學生だつた時分のことだ。その頃、僕のほかにもう一人、僕と同じやうに怠惰な學生が居て、そいつがある日、僕に向つて非衞生的な化學實驗室から逃出して草の上に寢ころびながら、パイプをふかふか吹かすことの樂しさを、教へたものだ。早速、僕はそいつの弟子になつた。そしてそのためには、つまり、パイプを手にいれるためには、讀みもしない原書を四五册賣り飛ばしさへすればよかつたのだ。思へば、僕もあの頃はひどく怠け暮らしてゐたものと見える。あの頃のことを思ひ出さうとすれば、いつもその友人と、草の上でパイプを吹かしてゐる光景しか浮んでこないのだから……
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