旧作のなかからいくつかの戯曲を選んで一冊に纏めたわけだが、特に発行所の希望をも容れて、比較的長いものの大部分が収まることになつた。長いから力作だとも云へまいが、かうしてみると、なるほどそれぞれの時代に於ける紀念作といふやうなものばかりである。「牛山ホテル」は、昭和三年の秋に、ふと、当り前の戯曲を書いてみようと思ひ、それまではわざと避けてゐた「筋」を織り込み、自分の経験と現実の印象を基礎として、客観的な主題の取扱ひ方を試みてみた。仏領印度支那は曾遊の地であり、「牛山ホテル」は一字だけ変へた実在の旅館であり、登場人物のいくたりかは完全なモデルといふほどではないが、例の植民地的な風貌をもつたそれぞれの典型をとらへたつもりである。
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